息子の誕生日
今年に入って、電話を買い替えた。スマホのことではない、据え置き型の電話機だ。最近は携帯電話に圧倒され、すっかり影が薄くなってしまったが、それなりに工夫を凝らしていて、使用後しばらくは、電話内に保存した画像をスライドショーしてくれる。電話の後、表示される写真にしばし時を忘れて見入ってしまう。多くはまだ幼い子供たちや、私自身あるいは細君の若かりし頃のものだが、胸に温かいものがこみ上げてくる。屈託のない子供の笑顔に「あの頃は可愛かった。(今は生意気だ)」、子育て奮闘中の細君に「いやー、いろいろあったけどご苦労さん」。優しい気持ちに満たされる。後ろから妻が近づいてきて、そっと肩に手を乗せて言った。「あなたが一番、老けたって感じね」。
11月11日は、息子の誕生日。皆で食事に出かけた。彼が生まれたのは、インディアナ州のインディアナポリス。その日は朝から雪だった。晩秋とはいえ南国沖縄。半袖のTシャツでビールを飲みながら、距離と時間の「長さ」について感慨に耽っていると、「25歳になってもまだ学生してるって、世間に申し訳ないっ。」息子が笑う。馬鹿野郎と言おうとしたが、私もそうだったことを思い出して思いとどまる。大好物だと言って憚らない“親のすね”をいつまでかじっているつもりなのかと思いながら「少年老い易く学なり難し」と訓示を垂れる。「とっとと一人前になって、私を楽にさせてくれ」が本心で、「Old soldiers never die, but fade away.」を早く実践したいのである。
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